飛ばない翼

さあ時間だ
飛びまわるのはもうやめだ
明日からまた自分の足で進むんだ

そう言って彼は
背中の翼ををパタリと閉じた


数年前、南の国からやってきた
色褪せたリュックと擦り切れたサンダル
魂をのせたブルースを鼻唄にしながら

南の国は嫌いじゃなかった
ただトウキョーに行きたかった

魔物渦巻くトウキョーで
すぐに闇抜ける道を見つけた

ぶつかって転がって傷だらけになって進む
だけど抜群のバランス感覚で
つねに水平に前を見ていた

もっと前に進むには翼が欲しい

神さまが授けてくれたのか
自分の手で勝ち取ったのか
それはもうどちらでもいい

ある日とうとう背中に翼が生えた

大きくて青く輝く翼はどこへでも行けた
小さな南の国さえ簡単に

たくさんのコドモに夢を運び
たくさんのオトナに愛を運んだ


さあ時間だ
飛びまわるのはもうやめだ
明日からまた自分の足で進むんだ

もぎ取ったりはしないよ
一生背負って生きていくんだ
だけど翼で飛ばなくなったって
俺は何も変わりはしないぜ

珍しく遠い目をしてビールを飲んだ

そうだね、あなたは何も変わっていない
家に帰れば相変わらず破れたジャージを履いてこたつに入り
鼻唄を唄っているんでしょう?

迷いも焦りも達成感も期待も
すべてあなたのものだ
私は何をしようとしていたんだろう

おやすみなさい また明日

擦り切れたサンダルで運ぶ夢は
夕陽に微笑む月の色
愛しいあの子の宝物

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by telmanamikan | 2014-03-15 23:51 | 新月  

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